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sekimoto

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> 思うこと


先週末、書籍が出ることを告知させて頂きまして、いろいろ反響を頂きました。お祝いのお言葉を下さいました方々には、この場をお借りして御礼申し上げます。

この本を出すにあたっての私の思いや出版の経緯などは、本書にも書かせて頂きましたので、本が出ましたらどうかお手に取ってお読み頂けたら幸いです。


先日のブログにはまだ校了していない旨を書きましたが、今日がほぼ実質的な校了日となります。これまで長い道のりでした。原稿を書いたら書いたで、今度はそのチェックがあります。その分量も150ページ超にもなると目を通すだけでも大変な作業になります。

私はブログもそうですが、後から何度でも読み返して、自分の素直な気持ちとの温度差や、これを書くことで誰かを傷つけることにならないかなど、いろんなことを考えて細部の表現をあとからチクチクと直します。

言い回しでも、「が」と「は」ではニュアンスが違いますし、「を」と「も」でも異なります。そんなどうでもいいことを、あとから、時に数日経った後でもチクチクと直します。

ですので、今回の原稿でも例外なくそんなことを最後までチクチクとやっています。

でもさすがにここまで来ると「もう見たくない!」という心境でして、心変わりしないように最後は努めて原稿を読まないようにしていましたが、編集者さんは違うんですよね。最後の最後まで、細かいところをさらにチクチクと修正を入れられてきます。

そんな姿を見ると、頭が下がると同時に、あぁ我々の仕事と一緒なんだなと思います。


我々の描く図面も、図面の最終段階になると(いやそうでもないか。最初の段階から?)スタッフが描いた図面を私がチクチクと直します。

たぶん図面を描いている本人たちは「え、そこ?」とか、「そんなとこ、どうでもいいじゃん!」とか思っているかもしれません。わかります。私もスタッフの時はそう思っていました。

でも違うんですね。図面の伝えたい内容の大局は同じでも、文章で言うところの「が」と「は」ではニュアンスが違うように、「を」と「も」では異なるように、表現の微差によって出来上がるものの着地点は微妙に変わってくるのです。

そんな無数のチクチクを重ねることで、ものづくりはようやく薄皮一枚上の洗練へと辿り着くことができます。それは、映画監督が役者の演技に何度もダメ出しをしたり、舞台美術さんがカメラに写っていないところまで精巧に作り上げるのと、少し似ているかもしれません。

だから家づくりは、無数の人たちが、チクチクと無数に針を打って仕上げた刺繍の大作のようなものかもしれません。それは本を作るのでも同じなんだなと感じられたことは、私にとってはちょっとした感動体験になりました。

本の発売と時期を同じくして、今月末に住宅がまた一件完成します。現場では今もなお、チクチクと私の細かいチェックと現場の作業とが続いています。完成を待ち望むお施主さんの心境が、今はよく分かります。