先週土曜日は、住宅遺産トラスト主催の中山邸(1983年・設計:宮脇檀)の取り壊し前最後の見学会がありました。宮脇檀さんといえば多くの住宅建築家にとっての憧れの存在であり、その設計手法は今もなお手本であり続けています。
残念ながら宮脇さんは今は既に他界されておられますが、「玄関の軒は低く低く!」「アプローチは脇から取れ!」など多くの格言は、私も今もプランニングの際に反芻して意識するキーワードになっています。
そんな宮脇さんの住宅を実際に見られるという機会は非常に貴重で、この日は大変な数の建築関係者が集まり、その数500人!久しぶりに上昇した気温と共に、皆汗だくで見学していました。
この住宅は、モダンで箱形の傑作住宅を多く残した宮脇氏には珍しく、民家のような深い軒を持つ瓦屋根が載せられています。ひとつには施主からの、「ボックスだけはかんべん願いたい」とのご要望があったことも明かしていますが、もともとこの敷地にあった古い蔵や長屋門との調和や尊重もその意図にはあったようです。
それでもただの瓦屋根の住宅とせず、RC造を併用した混構造で解くところが、安易な予定調和を嫌う宮脇さんらしい設計アプローチです。解説にも「和風の住宅を創ろうとは決して思わなかった」と強調されています。
でもぱっと見たらきっと誰でも「あれ、和風なんだ?」と思いますよね。当日配られた資料の解説文に、そんな当時の宮脇さんの葛藤のようなものも垣間見れて、興味深かったです。
◇
さてそんな宮脇さんの中山邸、本来はその外観やプラン構成などに多くの解説がなされるところですが、私はやはりそのディテールについ目が行ってしまいます。
しかし些末なことと侮るなかれ。そこにあったのは、まっすぐに注がれた設計者の愛情でした。神は細部に宿る?いえ、おもてなしこそが細部に宿ると思うのです。
たとえばこれ。屋根の開きを抑えるタイバーですが、通常は金属がそのまま露出するところ、わざわざ凝った加工を施した木で被覆しています。
しかも板のジョイント基準をタイロッド貫通部に合わせていることにも注目!工程としてタイバーが先行しますので、貫通する木部には割が出てきますが、それを意識させない仕舞いです。手段と目的を違えない。すべてがミリ単位で計算された空間であることが分かります。
続いてメラミン天板の小口処理。
一見なんてことないように見えます。しかしカウンター平面が曲面となっているところに注目!普通小口の大手材は無垢材ですので、こんなに自由自在には曲がらないはず。
よく見ると積層曲げ加工を施しています。これは北欧家具などに見られる曲げ木の技術のひとつです。トイレのこんな些末な部分であっても手を抜いていない。本気で取り組んでいるというところにぐっときます。私は背筋がピンと伸びる心境です。
続いてこれは寝室の出窓のディテールです。
これは宮脇さんも著書にディテール解説をされていて、宮脇さんの定番ディテールの一つだったようです。寝室の採光と通風を、まとめて出窓で解決するという方法です。
これはまだ若かりし頃本で読んで、住宅建築家はこんなことまで考えるのか!と舌を巻いたディテールでしたので、実物が見れて感無量でした。
私も寝室の枕元に出窓をよく作りますが、これは宮脇さんの影響によるものです。私はもっとディテールを簡略化させていますが、これは途方もなく凝っています。個人的には漏水や結露、コストが怖くてなかなか手が出せません(苦笑)
そしてこれは浴室の窓。
木製サッシュの内側に、さらにガラリ戸を設けています。意図としては、サッシュを開けるとその隙間から中が覗けてしまいます。こうしておけば、プライバシーは確保しながらも通風を取ることができる、安易にブラインドに逃げない、そういうことなのだろうと思います。
上部と、また浴槽がある下部にも窓があることにも注目!どうしてかわかりますか?
お風呂に入りながら、頬に外からの風が当たったら気持ち良いですよね。私もよくそういうことを考えます。また天井を見ると、
換気扇が埋め込まれています。おそらくこの形状からすると、換気扇が見えないようにガラリが嵌まっていたのではないかと推測します。
あぁ、と声を漏らしながらくつろいだ浴室で、天井を見上げたら無粋な換気扇が直付けされていたらどうでしょうか。きっとリオタデザインのお施主さんは今頃「あ、うちと同じ納まりだ!」と思っていることでしょう。
宮脇さんわかります!そうですよね。ひとつひとつに頷きながら、私と宮脇さんの対話は続きます。
次にこれはどうでしょう。わかりますか?上部のルーバー窓のオペレーターチェーンが、カーテンボックスを貫通して下まで落ちてきています。
これ自体は特段珍しいことではありません。しかしこの解決を見て下さい。5mmの穴を2つ開けているだけなんです。
大きめの穴をあけてチェーンを通すというのはうちもよくやるんですが、思えばボールチェーンは外れますから、その最小限の解決は5mmの穴二つでいいんです。どうして今まで気づかなかったんだろう?目から鱗とはこのことです。
手段と目的を違えない。ここでもひとつ頭が下がる思いでした。
最後にこちら。もはや説明はいりませんね。思わずニヤリ。
私は住宅設計の本質は”おもてなし”にあると思うんですね。全力で住まい手をもてなす。汚いところは見せない。気遣いを忘れない。
宮脇さんはそのエッセイやエピソードからも、毒舌家で豪快な人だったようです。しかしこうした設えの一つ一つを見ると、とても繊細で優しい人だったんだなということが伝わってきます。宮脇さんの背中がはるか遠くに思えます。
今回の見学会を主催して下さった住宅遺産トラストの皆さま、貴重な機会を誠にありがとうございました!
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