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sekimoto

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我々が描く設計図面とは別に、現場が図面を再作図する「施工図」というものが存在することを知ったのは、大学を出て設計事務所に入ってからだ。当時私は、入所後いきなり大手ゼネコンの現場監理担当者となった。

設計事務所が描いた図面のとおりに現場が施工するものと思っていた私は、それって二度手間じゃないの?とも思ったけれど、どうやら設計事務所が描いただけの図面では、技術的検証が不十分であるということらしい。

その施工図を我々がチェックし、承認する。だから必ずしも彼らの都合の良い施工にはならないのだけれど、現場監理はこの施工図確認と承認が肝であり、これを誤って承認してしまうと、何を施工されても文句は言えなくなるという恐ろしさもこの時知った。

そして独立した。現場には施工図をまず出させて、それを承認するのが監理である、と叩き込まれていた私は、零細の工務店に対してもそれを要求した。しかし彼らから返ってきたのは、「施工図ってなんですか?」というつれない返事だった。

どうやらゼネコンと住宅の現場では文化が違うらしい。住宅では設計事務所が描いた図面を、そのまま大工さんが施工する。つまり住宅の世界では施工図は設計事務所が描くらしい、ということをそこで学んだ。

そうなるとうかうかしていられない。いい加減な図面を描いても、誰もその後始末はしてくれないわけだから、大工さんが釘一本、棚一枚施工するまでのイメージを膨らませながら住宅の図面は描かなくてはならない。我々の「図面至上主義」の原点はここにある。

しかし、それでも優秀な現場監督は、住宅であってもキチッとした施工図を自ら起こす。

私は前述のような現実があったとしても、原則として全ての現場は施工図を起こすべきだと思っている。なぜなら、図面が頭に入るからだ。自分で反芻して図面を再作図してみると、設計者の意図や職人さんの段取り、搬入方法や施工手順など様々な問題があぶり出されてくる。

数学の問題を後ろの解答集を見てわかったつもりになっていても、いざ自分で解こうとすると頭がまっしろになってしまうことがある。台本を下読みして、稽古場で何度もリハーサルを繰り返す。これが現場における施工図の意味だと私は考える。

そんな中で、私は施工図能力ナンバーワンなんじゃないかと思っているのが、エークラフトの伊藤さん。過去には吉祥寺のmoiや、crann、SLIDEなどの内装施工をお願いしているのだけれど、この方にお願いするとそれはそれは丁寧な施工図が上がってくる。

惚れ惚れするのは、それがすべて手描きで、私のような手描き設計事務所出身者であっても唸らされてしまう美しさなのである。箱をどこで分節して、どこに配線・配管を通すのかについても、実に念入りに検討されている。

これはスタッフにも教育効果は抜群で、高いレベルの仕事というものはどういうものなのか、という基準を植え付けるには最適の教材になっている。我々もここまで描いて現場を唸らせたい、といつも思う。