大学で3年生と話していたら,第2課題の敷地は「長者ヶ崎」だという.長者ヶ崎か…懐かしい.三浦半島にある長者ヶ崎は,ある時期まで日大生定番の敷地だった.
約20年前,我々の長者ヶ崎は「セミナーハウス」だった.その課題を今でも大切に保管してある.私にとって特別な課題だったからだ.3年生のこの課題で,私ははじめて本気で課題とそのプレゼンテーションに向き合ったような気がする.
表現という部分で言えば,これはすべてフィルムトレペという特殊なトレーシングペーパーにインキングとエアブラシによって仕上げている.フィルムに図面を描くことによって,下の図面が透けて見える.その効果を狙って,1階平面図の上に2階平面図を重ね,断面図の上にファサードとしての立面図を重ね,すべてを連続したストーリーの中で語れるように図面を構成した.
この課題ではじめて「S」(A評価の上)という評価をもらった.Sというのは当時はなかなかもらえない評価だった.また辛口の当時講師(現在は教授)だった本杉先生や,TA(現在は准教授)だった佐藤慎也さんなどからも褒めてもらった(本人は覚えていないかもしれないけれど)というのが,当時の自分にはとても嬉しくて自信になったのを覚えている.
だから学生課題はこの長者ヶ崎が原点.ただ作風を見ると,当時の時代性がとてもよく出ている.まだポストモダンの余韻が漂っていた頃で,伊東豊雄さんや長谷川逸子さんなど,パンチングメタルでヒラヒラした造形が流行っていた時代だ.
これを後に内藤廣さんの事務所に面接で持っていったら,結構キツいカウンターパンチをもらった(内藤さんは当時こうしたヒラヒラしたのが許せなかったらしい).でも内藤さんにはもう一つ持っていった和紙に描いた鉛筆のドローイングをずいぶん褒めてもらった.(結局この年に入所したのは,現在も活躍する建築家の田井幹夫さん)
もちろん学生課題は単なる通過点.過去のアルバムを懐かしく眺める趣味は私にはないけれど,この課題をはじめとした2,3の作品は今でも思い入れが深い.パソコンもなかった時代だからすべて手描きで,データで残すというわけにもいかない.そこが愛着が残る所以にもなっているのだろう.
図面の隅に残る本杉先生手描きのコメントは,今でも大切な宝物だ.
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