クライアントがご要望やその求める空間のイメージを設計者に伝える方法は実に様々だ.時に口頭で,時に箇条書きにして渡されることもあるし,ある美術品に託して渡されることもある.
私の独立後の初仕事となったカフェmoiの岩間さんの場合,まだ私がフィンランドに留学中だった頃,そして岩間さんもテナントもまだ見つからず,オープンの見通しも何も立っていない頃に,無名の私にその夢を託し二枚のコンピレーションアルバムを贈って下さった.
「kuppi kahvia (a cup of coffee)」とタイトルが書かれたお手製のラベルに,岩間さんがセレクトしたボサノヴァの名曲がびっしり詰まった手作りのCDだった.岩間さんは一言「こういう曲が流れるお店にしたいんです」とおっしゃった.それは当時の私にとって,空間を設計するのに必要にして十分な情報だった.実際それ以外のことは何もおっしゃらなかったと記憶している.
当時はもうすり切れるくらい(実際はCDだからすり切れることはないのだけれど)聞き込んだ.そして今でもこんな雪の降る日にiPodから流れてくる曲は,やっぱり岩間さんの選曲なのだった.あれからずっと聴き続けているのに飽きないというのはすごいことだと思う.それはmoiというお店そのものであり,岩間さんが淹れてくれるコーヒーそのもののような気がする.
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