26. 05 / 14

まりこブレンド

author
sekimoto

category
> 思うこと
> 社会



20年くらい昔、私が本当に駆け出しだった頃に設計を依頼くださった方にIさんという方がいらっしゃいました。Iさんご夫婦とは、家を建てた後も何かとご縁があり、今でもたまにやりとりのあるのですが、そのIさんの奥様まりこさんの訃報が先週届き、あまりの衝撃に報を眺めながらしばし固まってしまいました。

まりこさんは当時まだ一件くらいしか住宅を設計したことのない私に設計をご依頼くださり、その後もなにかと気にかけて食事の席に呼んで下さるなど、ご主人と共に私の仕事をずっと見守って下さっていた方でした。

顔が広く、国内外の一線のデザイナーさんともつながりのある方で、当時もほかにもっと有名で実績のある建築家を何人もご存じだったはずなのに、なんの実績もなく無名だった私に設計をご依頼くださったことは今でも感謝しています。その住宅はその後建築専門誌にも掲載となり、それがきっかけで大学の非常勤講師にも声がかかるなど、私にとっては出世作となった住宅でした。

そんなまりこさんが、ある時別れ際に私にさりげなくかけてくださった言葉があります。

「関本さんなら大丈夫」

言葉で書くとなんと平易でありふれた言葉でしょうか。これまでそんな言葉は無数の方からかけて頂いたような気もするのですが、私はこの日のことを今でも鮮明に覚えていて、今に至るまで時折思い出すのです。

言葉というのは不思議なもので、誰がその言葉を口にするのか、どんな時に言われたのか、そのことでその言葉はその人の心に一生分の楔を打ち込みます。いわゆる言霊というやつかもしれません。

その時の私はまだまだ駆け出しで、これからのこともまだ見えず不安でいっぱいだった時だったのだろうと思います。そんな時に目利きのまりこさんにかけられたこの一言は、まるで予言のように響き、「私は大丈夫なんだ」と自分に言い聞かせる暗示と呪文にその日からなりました。これまで何度その言葉に救われてきたことでしょう。まりこさんは私にとってそんな方でした。

今日小さなギフトが届きました。送り主はまりこさん。思わずドキッとしました。

中を開けるとメッセージとともに小さなコーヒーの箱が入っていました。ラベルには「mariko」とあります。「まりこブレンド」コーヒー好きだったまりこさんのご家族が送って下さったものでした。メッセージにはいかにもまりこさんがおっしゃいそうな言葉が詰まっていて、おもわず胸がいっぱいになりました。なんとあたたかな贈り物だろう。

これまでのたくさんの思い出と共に頂きます。
まりこさん、出会いとこれまでのすべてに感謝します。ほんとうにありがとうございます。いつの日か、いつの日か、また会いましょうね!