11. 08 / 11

あの日のゲーム

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sekimoto

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> 子ども



小学校低学年の頃,ちょうど今のうちの子と同じくらいの時,父とプロ野球を観に行った.僕も父も特に野球が好きだったわけでもなく,またいつもは家族みんな一緒とか,兄弟と一緒が多かったのだけれど,この日はなぜか父と二人だった.

この日は夕方にまだ仕事をしている父の会社に連れて行かれた.執務室で黙々と仕事をしている父の姿はどこか怖くて,その姿を見て一瞬ほころびかけた表情がまたこわばった.黙々と父の仕事が終わるのを待っていた,あの居心地の悪いソファの感触を今でもよく覚えている.

皮肉なことにゲームの記憶はまったく残っていない.とにかく帰り道が異常に眠くて,電車の中で立っていられなかったことだけは覚えている.その日父と交わした会話すら覚えていない.今でもあれは何だったんだろうと思う.楽しかったというより僕は父と二人きりという状況にただ緊張していた.こんな時父とどんな話をすればいいんだろうと思っていた.

もしかしたら,僕がそんな子供だったからあえて父は僕を誘ったのかもしれない.父は僕が学生の時に他界した.今父が生きていたら,と思うことが今もよくある.

昨日は地元西武ライオンズのゲームが西武ドームであった.この日は地元のファンを招待するイベントがあり,僕も子どもも特に野球が好きだったわけではなかったけれど,僕もなぜかあの日のことがふと頭をよぎって仕事を早めに切り上げ,二人で西武ドームへと向かった.

子どもは終始上機嫌だったけれど,野球を見るのが初めてだったらしい.ルールがよくわからないといって,途中から隣で居眠りをはじめてしまった.特に野球に興味もない僕は一瞬途方にくれてしまったものの,幸いその日のゲームは好ゲームで,逆転に次ぐ逆転.ホームランも何本も飛び出す乱打戦で,素人にもわかりやすく楽しむことができた.

途中から起き出した子どもとも一生懸命声援を送って,夜遅くに帰宅した.あの日のことが頭をよぎって,途中まで車で来ていたのも功を奏した.

僕は無意識のうちに,あの日に戻っていろいろなことをやり直したいと思っていたのかもしれない.幸い子どもはそんな僕の心中を知る由もなく無邪気にふるまっていた.彼は大人になっても昨晩のゲームを覚えているだろうか.

子どもが言ってくれた「すっごく楽しかった!」という言葉を,あの日の僕は言えなかった.