Finland通信


PART 1
建築家達との出会い、そして...

2000/03/10




昨年の旅行でフィンランドの建築にはじめて触れて約1年が経とうとしています。そしてフィンランドで建築を学びたいとの想いから、今回単身ヘルシンキに行って参りました。ただし今回の目的はフィンランドの生の声を聞くこと建築家達に実際に会いに行くこと。
はたしてうまくいくことやら...。




27/Feb. (Sun)

ヨーロッパの玄関口、フィンランドは日本からだと10時間かからない。到着したヘルシンキは約+3℃。拍子抜けする暖かさ(?)だ。

タクシーで市内に向かう。去年に来ただけなのにとてもなつかしい。と同時にあこがれのフィンランドにまた来れたことが無性に嬉しく一人でニヤニヤしてしまった。
ホテルは想像していた以上に良いホテルだった。一人で泊まるには贅沢かなとも思ったけど、結果的に大正解。部屋のテレビはフロントでキーボードを借りてくるとE-mailやインターネットもできる。

着いて早々デザイナーの安田さんがホテルに訪ねてきてくれた。彼とはインターネットで知り合い、僕より一足先に北欧を旅していたのだった。こんな時、旅先で日本人に出会えるととても嬉しい。お互いの前途を祈りつつ乾杯!

また日本で紹介してもらった建築写真家で建築模型家でもあるヤリ・イェッツォネンさんに電話する。「よし、明日の朝9時にそっちのホテルに行ってやる」とのこと。
期待と不安を感じつつ、ようやく就寝。

安田さん ホテル


28/Feb. (Mon)

朝、ヤリさんは少し遅れて到着。挨拶もそこそこにホテルのカフェでいきなり本題に。そう、実はヤリさんには日本からフィンランドの建築家に会ってみたいこと、できれば事務所で働いてみたいことなどを伝えてあったのだ。

彼は「じゃあ僕の知っている建築家を2人程紹介してやるよ」ということでPekka Helin氏(ノキア本社の設計者)とKai Wartiainen氏(若手でアメリカ現代建築風の作風)に早速電話をしてくれた。しかし1人は英語が得意ではなく、もう一人は不在で連絡がとれずに結局NG。するとヤリさんはフロントで電話帳をコピーすると片っ端からマルを付けてくれた。「とりあえずここにかけてみるといい。幸運を祈るよ。」彼の親切にただただ恐縮。

その後、彼も写真家として関わる「サウナと日本の風呂展」というような展示会に連れていってくれた。そう、彼はいろいろな形で日本と関わっていて、7月には日大の芸術学部の木製建築模型のセミナーでも来日するのだ。
「よし、じゃあ今週の金曜日にフィンランドのサウナに連れて行ってやるよ」

ヤリさん 海は凍っていた

29/Feb. (Tue)

アアルト財団を訪ねる。アルヴァ・アアルトの旧アトリエをそのまま使用しており、ここのマリヨさんというフィンランド人を日本から紹介してもらっていたのだ。せっかくだから中を見学していったらどうかとのことで、男性スタッフが案内してくれた。写真で見たあこがれのアトリエにただただ感激。

市内に戻り1年ぶりの街をふらふらと散歩。その後、現代美術館や建築博物館などに寄り、フィンランドの建築家に関する書籍をあさる。この手の本は日本ではほとんど手に入らないのだ。

ホテルに戻り、ヤリさんに教えてもらった建築家のうちまずPekka Salminen氏(ヘルシンキ国際空港を設計)にまず電話。しかし彼は忙しいらしく不在。
次にかけたのが現代フィンランドを代表する建築家グループ、Heikkinen&KomonenのMikko Heikkinen氏。
「今けっこう忙しくて...来週じゃだめかな?」
今週末には帰ってしまうことを伝えると、
「う〜ん、じゃあ明後日の朝9時ならなんとかなりそうだ」
というわけで、ようやくアポイント完了!なんとなく気分も軽くなった。

アアルトの図面 現在はアアルト財団のスタッフが使用

1/Mar. (Wed)

朝、ヤリさんから電話。あれから彼もまた何人かの建築家に仕事について聞いてくれたらしい。しかしいずれもNG。ある事務所には一日3回ぐらい同様の電話があるとか。フィンランドは今比較的景気は良いらしいが、それでも日本より失業率はずっと高く、20%ぐらいいるらしい。それでも5年前は50%だったと言うからそれでもマシなのかも。

この日はHeikkinen&Komonenの出世作で「HEUREKA」という科学体験館みたいなところに行ってみた。この手の現代建築は日本では珍しくないけど、10年前にこれが出来たときは相当センセーショナルだったらしい。内部は子供達が楽しそうに走り回り、また構成もシンプルでわかりやすく、この手の建物にありがちな冷たさや事務的な感じは全く受けなかった。なかなかいい建物だな、と思った。

またヘルシンキのはずれ、ヴァリラの図書館(Juha Leiviska設計)にも行ってみた。僕はこのユハ・レイヴィスカという建築家が大好きだ。この図書館も例外じゃなかったけど、光の使い方が非常に上手く、全体的にとてもぬくもりがあって心が安まる気がするのだ。

Heikkinen&Komonen/HEUREKA Juha Leiviska/Vallila Library

2/Mar. (Thu)

すこし緊張の面もちでHeikkinenの事務所に向かう。古い組積のアパートの半地下に位置する彼の事務所は、とても第一線で活躍する建築家の事務所とは思えないぐらいひっそりとしている。
彼は僕の話を聞くと、
「あ〜そうか、大変残念なんだけれど、実はウチはいまスタッフが一杯なんだ。でもせっかく来たんだからコーヒーでも飲んでいきなよ」と彼の部屋に案内してくれた。
彼は10年前に日本に行った時の話や、安藤忠雄や伊東豊雄の事務所に行ったときの話などニコニコしながら語ってくれ、a+uの彼の掲載号をプレゼントしてくれた。また僕の作品集も気に入ってくれたようで、近くにあるという別の事務所を紹介してくれるという。本当に気さくな人で短い時間だったけど本当に楽しかった。

すっかりリラックスして勢いがついたので、その足で彼に紹介してもらったSARKのAntti-Matti Siikala氏(中央駅隣のインテリジェントビルを設計)の事務所を訪ねた。本人が出てきて、話を聞いてくれると言う。作品を見せると非常に興味を持ったらしく、「う〜ん...」と悩み始めた。彼も現在スタッフを雇う余裕がないそうなのだが戦力は欲しいという。しかし結局その場では結論が出ず、後でE-mailを送るという。たぶん良い返事は来ないだろうとは思いつつも、手応えがあったことには満足して事務所を後にした。

午後はヘルシンキ工科大学へ足を延ばす。ここでもまたインターネット経由で知り合った日本人留学生の方と会う約束があったのだ。学食でランチを食べながらいろいろな話を聞かせてもらう。また建築学科の建物にも案内してもらった。ちょうど学生コンペが発表で貼り出されていて人だかりができていた。作品はどれも至ってシンプル。それもそのはず、これらのコンペにはスポンサーがついて実際に建てるのだ。
また、日本からもE-mailでお世話になっていたGunilla女史にも会うことができた。彼女もまた本当に良い人で親切にいろいろと教えてくれた。「願書はまだ間に合うから、もし出願してみる気があるなら作品集を預かっておいてあげるわよ」というのでそのまま預けて大学を後にした。 ここのキャンパスには去年も来たが、この広大な敷地とのんびりした雰囲気が大好きだ。夫婦向けの学生寮もあるそうで、ここで勉強するのも悪くないなと感じた。

ホテルに帰り、ユハ・レイヴィスカに電話する。彼の事務所は今週コンペをやっており、実はこれまでに今週2回ほど電話しているのだがなかなか彼に取り次いでもらえず、最後のチャンスのつもりでかけたのだった。ようやく彼に代わってもらう。彼の事務所で働いていたことのある後輩の高橋君から彼は僕の話を聞いていたらしく、事務所を案内してくれるという。彼は明日の午後ならOKとの事だったが、悪いことにその日の午後はヤリさんと約束があったのだ。事情を話して、今から行ってはまずいか?という話をすると、とても疲れているが僕さえ良ければ構わないと言う。お礼を言って彼の事務所に向かう。
彼はその作品と寸分違わぬ温かい人だった。本当に親切に事務所の隅から隅まで案内してくれて作品の説明までしてくれた。また僕の作品集も気に入ってくれたようだったが、彼の事務所もまたスタッフが一杯とのこと。しかし彼とこうして語らいの時間が持てたことで僕はもう十分だった。最後まで見送ってもらいながら事務所をあとにする。

Mikko Heikkinen
Mikkoのデスク
ヘルシンキ工科大学 コンペの発表
Gunillaさん
Juha Leiviska

3/Mar. (Fri)

この日の午後はヤリさんとサウナへ。レイヴィスカとの天秤にも勝ったぐらい楽しみにしていたのだ。
その前に彼は「ケーブルファクトリー」と呼ばれる工房に案内してくれた。ノキアのケーブル工場跡らしいが、現在は芸術家のアトリエとして開放している。ここにはヘルシンキ工科大学の学生のための木材や機材も全て揃っていて学生なら誰でも使えるらしい。その規模と実践的な教育に驚かされた。

そしてサウナ。とにかくフィンランドのパブリックサウナは興味深かった。まるで日本の銭湯のような木のロッカーに服を入れてお金を払うと、タオル一枚でサウナに向かう。

サウナの中は基本的に照明は無く、バーチの木も真っ黒に塗られている。熱く熱した石に柄杓で水をかけると、かっと熱くなる。日本と同じように年輩の人ほど熱い部屋を好むようだ。サウナにのぼせると雪が吹雪く外のベンチへ。今度はめちゃくちゃ寒い。じきに体が慣れてくるとまた中へ。これを繰り返すと、今度は海で泳ごうと言う。え?と思うや否や桟橋を伝って氷の張る海へドボン!しょうがないので僕も一緒に飛び込んで泳いだ。でも不思議なことに陸に上がってしばらくしていると、体がかっかと熱くなって確かに暖まった気になる。でも正直死ぬかと思った。
またサウナの合間に休憩できる暖炉があって、そこでコーヒーなどを飲むこともできる。非常に庶民的なんだけれど、照明はアアルトやT.J.パッペなどの名作がさりげなく置いてあったりして、は〜っと溜め息がこぼれた。

最後にまたホテルまで送ってもらい、日本での再会を誓う。ヤリさん本当にありがとう。貴重な体験でした。

ケーブルファクトリー

4/Mar. (Sat)

とうとう日本に帰る日がやってきた。今回出会った人達の顔を思い浮かべながら飛行機に乗る。本当にエキサイティングな旅だった。

前回はフィンランドの建築やデザインに魅せられた旅だったけど、今回はフィンランドの人々に魅せられた旅だった。このフィンランドのデザインを考える時、彼らの誠実な人間性抜きでは決して語れないだろう。 また人の懐に飛び込まなければ得られない物があるということを知ったという意味でも今回の旅は収穫の多いものだったように思う。

フィンランドへの僕の旅はまだ終わらない。


 Part2 へつづく



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