17. 06 / 01

講評会



非常勤で教える日大理工学部2年生の第一課題「サードプレイス」の全体講評会がありました。私は非常勤は楽しいのですが、この全体講評会がなければいいのに、といつも思います。

講師というものは、教え子が発表で他の先生から集中砲火を浴びたり、箸にも棒にも引っかからなかったりすると、ずっしりと責任を感じるものです。自分の教え方がまずかったんだろうなと暗澹たる気持ちになるのです。

逆に評価されたらもちろん嬉しいのですが、そうしたら不思議なもので、自分の指導が良かったからだとは思わず、学生ががんばったからだと思うのです(他の方はどうか知りませんが)。

この日は、我がクラスから選出した2名とも優秀作として作品集に収録となり、うち1人は最優秀賞こそ逃したものの、スーパージュリー(外部講師を招いての総合講評会)への選出となりました。久しぶりの快挙。

おめでとう!義務が果たせて良かった。
でもやっぱり、講評会は苦手です…。

大学前期の第一課題である「サードプレイス」の提出がありました。中には心配していた学生もいましたが、最後はなんとか形にして提出したようでほっと胸をなで下ろしました。

即日で採点をして、A~C(たまにD)の採点を付けてゆきますが、Aよりも評価の高い学生にはSを付けます。採点で言えば90点に相当する評価で、学生なら一度は取ってみたいと思うあこがれの評価です。だいたい受け持ちのクラス(20人くらい)でSは2人くらいでしょうか。つまりSは10人に1人くらいということになります。

今日Aを付けた学生から、こんな素朴な質問をもらいました。
「先生、Sを取るにはどうしたら良いですか?」

どうしたら…難しい質問です。

思うに、Sを取る学生の案には特徴があるように思うのです。それはイメージがクリアでブレがないということ。そして何より”リアル”だということです。

イメージがクリアで、リアルであるということは学生課題に限らず建築ではとても大切なことで、モヤモヤした考えでやっていると、最後までモヤモヤした案になります。こういう案は人に伝わりません。

小説に例えるとこういうことになります。

小説家の多くは書く前にプロットを組み立てます。テーマ、状況、登場人物、そしてなんとなくこういう話にしようというあらすじのようなものを考えます。建築で言えば、どんな建物にするか、どんな利用者がどんな風にそこで振る舞うのかを考えるようなことです。

小説家はそこで筆を走らせながら、登場人物の仕草やちょっとした言い回し、窓から見える景色、雨の音に至るまで事細かにディテールを掘り下げてゆきます。そこを丁寧に描くからこそリアリティが生まれるのです。リアリティが生まれると、人は登場人物に共感したり、思い入れを持つようになります。架空の人物なのに、あたかも実在の人物であるかのように感じるのです。

そんな人物に不幸があれば、我々は本を読みながら涙を流します。

建築も全く同じ事なのです。「ここで本を読むんです」じゃなくて「木漏れ日の落ちる縁側に寝転がって、本を読みながらうたた寝をするんです」と言った方が、人はそこにより深く感情移入をすることが出来ます。

そうしたらそこに表現しなくてはいけないのは、「木漏れ日を落とす落葉樹」であり「風が抜ける縁側」であり「無防備でいられる守られ感のある空間」ということになります。もう設計で何をすれば良いか、プレゼンでなにを表現すれば良いか答えは明白です。なんなら、その本は太宰治なのかスラムダンクなのかまでもイメージできれば完璧でしょう。

建築はディテールが大切なのです。
まだそこにはないものを、あたかもそこにあるかのように、そこにあったらさぞ素敵だろうなと相手に思わせるように伝えるのが建築設計なのです。

今の学生に圧倒的に足りないのは想像力です。妄想力と言っても良いかもしれない。これは一朝一夕には身につきません。とりあえず、本を読むところからはじめて下さい。


日大2年生の建築構法の課題に、街の現場にアポ取って見学させてもらい、レポートを提出しなさいというのがあるそうです。ただこれが学生にとってはハードルが高く、時に何件も現場に断られるのだとか。

そりゃそうでしょう。現場監督も建て主から現場を預かる身、事故があってはいけないし、そもそも見せる義理もありません。

運良く許可をもらえても、授業のある平日に見学日を指定されたり、ろくすっぽ説明もしてもらえないケースも多いのだとか。ただこれも、現場の実情を考えればもっとものこと。

もっと、出題する大学側にも配慮が必要だと私は思うのですが!(もちろん小声でですよ。聞こえないようにね。ゴニョゴニョ…)

さて、我々のような非常勤講師はそんな学生達の駆け込み寺的存在。この日はGW中ですが、事務所にエスキース(設計指導)を受けに来た学生や、事前に申し出のあった学生らを引き連れ、ちょうど徒歩圏に上棟したばかりの現場に案内しました。

あの構法の教科書に載っている軸組の図解は、堅苦しくて私も今でも苦手なのですが、ナマの現場は興味と現実と真実に溢れています。あぁ、あの頃私も現場が見たかった。しかも設計者のナマ解説付きで。

そこの君たち、贅沢すぎるぞっ!


学生時代の設計課題は1年生の時のものから保管してあって、たまに学生が来ると話のタネに見せている。昨日は以前見せた学生がまた見たいといってやって来た。

当時はCADもイラレもないから、当然手描き。写真は3年生前期のセミナーハウスの課題で、フィルムトレペにインキング、着彩は裏からエアブラシを吹いた。フィルムの透過性を利用して、断面図の上に立面を重ねてガラス張りのファサードを表現している。

平面図も含め、今見てもよく描けてるなぁと思う。当時はプレゼンに丸二週間をかけていた。今の学生の手抜き図面(彼らはそう思っていないだろうが)を見ると歯がゆくて仕方がない。

なーんて話をし始めると、今時のワカモノを嘆く老人のようで本当に嫌だ。学生にも、当時はねなんて話をしていると、戦争を知らない子たちに戦時中の話を聞かせている語り部のようで心が折れそうになる。ロットリングって何ですか?と言われる。ついこの間の話のはずなのに!


ここ二週間ほど、弘世蓉子さんという日大の学生さんがオープンデスクに来ていました。オープンデスクというのはインターンのことで、建築では夏休み期間を使って、建築学科の学生さんが設計事務所などに実務体験にやってきます。

うちは事務所も狭くて、学生さんを受け入れる余地はあまりないのですが、この期間は来客予定が少なかったこともあり、ミーティングデスクを使って模型を作ってもらうことに。それを二週間後に予定していたクライアントとの打合せでお披露目をするところまでを一区切りとすることにしました。

そしてこちらがその完成模型。
志木市内に建つ予定の、『deco』というタイトルの住宅です。




特徴はなんといっても、2階のこの梁架構です。単純に梁を飛ばすと6m超のスパンとなるところを、45度に梁を渡すことでスパンを4.5mに留め、梁成も抑えています。またこの45度に振った梁をあらわしにすることで、この特徴的な天井をこの住宅のハイライトにもしています。模型でも一番の見せ所です。

そして今日がそのクライアントとの打合せ日。彼女にとっては、オープンデスクの最終日です。模型はクライアントには内緒で作っていたので、この日はサプライズとなりました。



奥様も思わず「泣きそう」とこぼして、大変感激して下さいました。これには学生の弘世さんも大いに感じるところがあったようです。

実のところ、私としてはまさにクライアントのこのリアクションや表情を見てもらうことが、このオープンデスクの目的であるとも思っていました。

大学の設計課題では、住宅を設計しても評価をするのは講師である我々であり、それも建築家目線でのクリティックになります。だから大学では先生受けする案が好評価を勝ち取ることになるのです。

ところが、設計で最も大切なことは目の前のクライアントに喜んでもらうことです。自分たちが一生懸命考えて作ったモノやコトが、相手に笑顔で受け入れられるという喜びを越えるものが、物づくりにあるでしょうか。


このオープンデスク期間中は、彼女をあらゆる現場やクライアントとの打合せに連れて行き、私と行動を共にしてもらいました。行く先々でもいろんな話をしましたが、それらをすべて理解したとは思っていませんし、忘れてしまってもいいとも思います。

けれども自分が一生懸命作った模型が、最後にクライアントに喜んで受け入れてもらえたというこの体験だけは、深く胸に留めてもらいたいと思います。
2週間お疲れさまでした!後期もがんばってくださいね。

またクライアントのUさん、本日の急な同席をお許し下さり、またご協力を賜り誠にありがとうございました。

1 / 812345...Last »
category
  • staff (24)
  • 建築 (92)
  • 仕事 (273)
  • 思うこと (111)
  • 子ども (62)
  • 遊び (9)
  • イベント (32)
  • 生活 (78)
  • 社会 (19)
  • メディア (66)
  • はまりもの (21)
  • news (2)
  • 大学 (38)
  • 未分類 (6)
  • 旅行 (17)
  • openhouse (42)
  • 弓道 (6)
  • タニタ (12)
  • 北欧 (12)